今年も暑い季節がやってきました。この夏、特に気をつけたいのは、やはり熱中症です。
熱中症というと、炎天下の屋外で起こるものというイメージはありませんか。
しかし、室内でも熱中症は起こります。特に高齢者は暑さの影響を受けやすいとされています。
室内の暑さは、エアコンの使用だけでなく、窓から入る日差しや屋根・外壁にこもる熱、風通しや湿度など、建物の環境にも大きく左右されます。
今回は、高齢者が特に注意したい室内熱中症対策について、建物の視点からできる予防策を考えていきます。
室内でも熱中症は起こる

消防庁熱中症情報より引用(https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r8/heatstroke_sokuhouti_20260629.pdf)
消防庁が発表した令和8年6月29日~7月5日の速報値では、熱中症による救急搬送の発生場所が「室内」が36.1%と、他の場所と比べて最も多くなっています。
また、年齢区分別に見ると、高齢者が62.9%と全体の半数以上を占めています。
この数字からも、室内で過ごしているからといって、必ずしも安心とは言い切れないことがわかります。
特に高齢者が暮らす住まいでは、暑さを「我慢する」のではなく、室内環境そのものを整えることが大切です。
熱中症予防は、水分補給や体調管理だけでなく、毎日を過ごす建物の環境づくりからも考えていく必要があります。
ここからは、高齢者が熱中症になりやすい原因や、建物に熱がこもる理由をみていきます。
高齢者が熱中症になりやすいのはなぜ?

高齢者が熱中症になりやすい背景には、年齢による身体の変化や日々の生活習慣が密接に関わっています。
主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 体温調節機能の低下
- 体内水分量の低下
- エアコンや水分補給を控えて生活習慣
ここからは、それぞれの原因について詳しく説明していきます。
暑さに気づきにくくなる体温調節機能の低下

高齢者が熱中症になりやすい理由でまず挙げられる理由は、「体温調節機能の低下」です。
人間は、皮膚の温度センサーによって気温や暑さを感じ取り、その情報を脳に伝えることで体温を調節しています。
衣類を着る・脱ぐ、エアコンや扇風機をつけるなどの対処方法を選択するのも脳からの指令によるものです。
しかし、加齢によって皮膚の温度センサーが弱まりやすくなります。
これにより、暑さ・寒さが正確に伝わりにくくなり、体温調節をするための身体機能や、適切な対処方法の選択へつながりにくくなります。
猛暑の日に「そんなに暑くない」、厳寒の日に「そんなに寒くない」と感じても、実際は体温の調整が必要な状態である可能性があるため注意が必要です。
また、発汗量や血流量の増加が遅いのも、体温調節機能が低下している理由となります。
汗をかく、血液量の調節をする、といった身体機能は、体温の調節に直接関わってくる大切な機能です。
通常は身体に熱がたまると、汗をかいたり皮膚の血液量を増やして体内の熱を放出しますが、年齢を重ねると汗腺が小さくなり、血液量の調節も遅くなりやすいとされています。
これらの機能が低下することで、身体の放熱作用が弱まり、体温が下がりにくくなります。
のどの渇きを感じにくい体内水分量の低下


一般的な成人が蓄えられる水分量
高齢になってくるにつれ、汗や血液に使われる水分量が少なくなっていきます。
一般的な成人が蓄えられる体内水分量が60~70%であるのに対して、高齢者は50~55%程度といわれています。
体内の水分量が少なくなる原因としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- 水分を蓄える役割をもつ筋肉が減少すること
- 水分調整に関わる腎臓の機能が低下し、老廃物を排出するための尿の量が増えやすくなること
体温を下げるためには、汗をかいて体内の熱を外へ逃がす必要があります。
たとえば、体重70kgの人が体温を1℃下げるには、約100mlの発汗が必要です。
しかし、高齢者は体内の水分量が少なく、前述したように皮膚の温度センサーも弱まりやすくなります。
そのため、のどの渇きに気づいた時には、すでに脱水が進んでいる可能性があり、時間を決めてこまめに水分をとる習慣を作ることが大切です。
参考:水分損失率(対水分)と現れる脱水諸症状の関係
| 水分損失率 | 症状例 |
|---|---|
| 1% | 大量の汗、喉の渇き |
| 2% | 強い乾き、めまい、吐き気、ぼんやりする、重苦しい、食欲減退、血液濃縮、尿量減少、血液濃度上昇 3%を超えると、汗が出なくなる |
| 4% | 全身脱力感、動きの鈍り、皮膚の紅潮化、いらいらする、疲労および嗜眠、感情鈍麻、吐き気、感情の不安定(精神不安定)、無関心 |
| 6% | 手足のふるえ、ふらつき、熱性抑鬱症、混迷、頭痛、熱性こんぱい、体温上昇、脈拍・呼吸の上昇 |
| 8% | 幻覚・呼吸困難、めまい、チアノーゼ、言語不明瞭、疲労困憊、精神錯乱 |
| 10~12% | 筋痙攣、ロンベルグ徴候(閉眼で平衡失調)、失神、舌の膨張、譫妄および興奮状態、不眠、循環不全、血液および血液減少、腎機能不全 |
| 15~17% | 皮膚がしなびてくる、飲み込み困難(嚥下不能)、目の前が暗くなる、目がくぼむ、排尿痛、聴力損失、皮膚の感覚鈍化、舌がしびれる、眼瞼硬直 |
| 18% | 皮膚のひび割れ、尿生成の停止 |
| 20% | 生命の危機、死亡 |
出典:水分損失率と現れる脱水諸症状の関係、日本体育協会、スポーツと栄養、108ページ、表7
エアコンや水分補給を控えてしまう生活習慣
高齢者の熱中症リスクを高める原因のひとつに、「エアコンや水分補給を控えてしまう生活習慣」があります。
たとえば「冷房は身体に悪い」「エアコンの風が苦手」「電気代が気になる」といった理由から、暑い日でもエアコンの使用を我慢してしまう方もいます。
室内に熱がこもった状態が続くと、気づかないうちに体温が上がり、熱中症につながる危険があります。
特に高齢者は前述したように、身体機能が低下して気温を感じにくくなっていく傾向があるため、「まだ大丈夫」と思わずに、エアコンなどの室内の温度や湿度を適切に保つ習慣を心掛けましょう。
また、「夜間のトイレが気になる」「外出中にトイレに行きたくない」などの理由から、水分補給を控えてしまう場合があります。
水分を控えると、汗をかくために必要な水分が不足し、体内の熱を外へ逃がしにくくなり、その結果、脱水が進み、熱中症のリスクが高まります。
高齢者が安心して夏を過ごすためには、本人の意識だけに頼るのではなく、無理なく涼しく過ごせる住まいの環境を整えることが必要です。
建物に熱がこもる原因

高齢者の熱中症を防ぐためには、身体の変化や生活習慣だけでなく、毎日を過ごす建物の環境に目を向ける必要があります。
室内が熱くなる原因は、単に外の気温が高いからだけではありません。よく挙げられる原因として以下のものがあります。
- 窓から入る日差し
- 屋根・天井・外壁に蓄えられた熱
- 風通しが悪さ
- 湿度の高さ
- エアコンなどの機器効率
建物自体のつくりや状態によっても室内の暑さは大きく変わります。
特に夏場は、日中に建物全体が熱を持ち、その熱が夕方以降も室内に残りやすくなります。
そのため、外が少し涼しくなったように感じても、室内には熱がこもったままという現象がおこります。
ここから先は、室内が暑くなる原因と対策を細かく見ていきます。
窓回りから考える暑さ対策

室内に入ってくる熱の多くは、窓からの日差しによるものです。
代表的な熱の侵入場所の中でも窓から入る熱は最も多く、全体の約73%とされています。
窓は光や風を通り入れる大切な部分ですが、夏場は強い日差しが室内に入り込み、室温を上げる原因になります。
窓回りの暑さ対策で大切なのは、日差しを「室内に入ってから遮る」のではなく、できるだけ「室内に入る前に遮る」ことです。
主な対策は以下の通りです。
- 窓を複層ガラスに変更する
- 窓に遮熱フィルムを貼る
- すだれやシェード、オーニングなどを設置する
- 遮熱カーテンやブラインドを使う
複層ガラスへの交換は、国や各自治体から補助金が出ることもあり、人気の工事のひとつとなります。
オーニング・シェード・庇などは工事が必要な場合もありますが、日差しを外側で遮りやすく、室内の温度上昇を抑える方法として有効です。
余裕があれば、選択肢の一つとして検討しておきたい対策になります。
また、大がかりな工事が難しい場合でも、すだれや断熱カーテンを設置することで、暑さの感じ方が変わることがあります。
高齢者が住む住まいでは、操作のしやすさにも配慮が必要です。
手が届きにくい場所にあるカーテンや、力が必要なブラインドは、使われないままになってしまうことがあります。
必要に応じて、軽い力で操作できるものや、電動タイプを選ぶことも重要です。
屋根・天井・外壁から考える暑さ対策

夏場は強い日差しによって、屋根や外壁の表面温度が高くなります。
外気温が35℃程度の日でも、屋根の表面温度は60~70℃になることがあると言われています。
屋根や外壁に蓄えられた熱は、時間をかけて室内側へ伝わります。
そのため、日中だけでなく、夕方から夜にかけても室内に熱が残りやすくなります。
特に、最上階の部屋や2階の居室、西日が強く当たる部屋は、屋根や外壁からの熱の影響を受けやすい場所です。
高齢者が寝室として使っている場合は、夜間の室温上昇にも注意が必要です。
屋根からの暑さ対策は主に以下の選択肢があります。
- 遮熱塗料や断熱塗料を使った屋根塗装
- 小屋裏換気の見直し
- 高性能の断熱材の追加・交換
外壁からの暑さ対策は主に以下の選択肢があります。
- 遮熱塗料を使った塗装
- 断熱高性能の断熱材の追加・交換
- 外壁のカラーを淡色系にする
国土交通省や塗料メーカーの実験では、遮熱塗料施工により、屋根表面温度が最大15℃、室温が2~3℃低下した例もあります。
また、外壁を淡色系のカラーにするだけでも、そうでないものと比べて約5℃程度下げられたケースが報告されています。
大がかりな工事になる場合もありますが、屋根・天井・外壁の暑さ対策は、建物全体の室内環境を整えるうえで重要なポイントです。
夜になっても室内の熱が抜けにくいと感じる場合は、屋根・天井・外壁からの熱対策を見直してみることも大切です。
風通しと空気の流れを整える

風通しの悪い部屋では、窓から入った熱や、屋根・外壁から伝わった熱が室内に残りやすくなります。
それに加え、湿度が高い状態が続くと汗が蒸発しにくくなり、身体の熱を外へ逃がしにくくなります。
換気を行う際は、風の入口と出口をつくることがポイントです。
ひとつの窓だけを開けるよりも対角線上にある窓やドアを開けることで、空気が流れやすくなります。
ただし、夏場の日中は、外の空気自体が高温になっていることがあります。
無理に窓を開けるのではなく、早朝や夕方など直射日光が当たりにくく比較的涼しい時間帯に換気をするのがオススメです。
また、小屋裏や2階部分は熱気がこもりやすい傾向があります。
これは温かい空気が上昇する性質の影響で、屋根裏や天井付近にたまった熱気が室内に伝わりやすくなるためです。
小屋裏ば、外気温よりも5~10℃高い環境になることがあるといわれています。
換気棟や、有圧換気扇、軒天換気口の増設など、小屋裏換気を導入することで、小屋裏温度の上昇を抑えられ、室内の暑さ対策につながる場合があります。
建物の状態を確認し、窓を開ける自然換気だけでなく、換気設備を使った機械換気を併用することも視野に入れておきましょう。
エアコンを効きやすくする建物の工夫

熱中症予防には、エアコンを適切に使用することが大切です。
サーキュレーターなどを併用し、部屋の空気を循環させると、部屋全体の温度ムラがなくなり、エアコンにかかる負荷を減らすことができます。
暖かい空気は上に、冷たい空気は下に向かう法則があるため、冷房を使う際には扇風機やサーキュレーターを上向きにして空気をかき混ぜます。
また、冷やす範囲を整理することも有効です。
使っていない場所まで冷やそうとするとエアコンに大きな負荷がかかります。
必要に応じて、間仕切りやロールスクリーン、カーテンなどを活用し、生活する範囲を効率よく冷やせるようにするとよいでしょう。
エアコンの室外機回りも確認したいポイントです。
室外機の周囲に物が置かれていたり、直射日光が当たり続けていたりすると、排熱がうまくいかず、冷房効率が下がる場合があります。
室外機の周囲には空気の通り道を確保し、必要に応じて日よけを設置することも検討しましょう。
高齢者が暮らす住まいでは、エアコンを「使うかどうか」だけでなく、「無理なく使えるか」も大切です。
リモコンは常に手の届きやすい場所に置く、リモコンの温度表示が見えやすい物を選ぶ、直感的に操作ができるものを選ぶ、などをエアコンの選定時や設置時に確認しておくと、必要な時にすぐ使えるようになります。
家族や介助者が定期的に室温を確認しやすいように、温湿度計を設置しておくと、無理なく見守りがしやすいためおすすめです。
高齢者の方の住まいで気をつけたいこと

高齢者の熱中症予防では、室温や湿度を整えるだけでなく、「本人が無理なく涼しく過ごせる環境になっているか」を確認することが大切です。
特に注意したいのが、寝室・リビング・浴室・キッチンなど、日常生活の中で長く過ごしたり、温度や湿度が上昇しやすい場所です。
寝室は、就寝中に暑さや喉の渇きに気づきにくい場所です。
夜間でも室温が高い状態が続くと、知らないうちに身体に熱がこもることがあります。
エアコンや扇風機を使いやすい位置に整え、温湿度計を見やすい位置に置いておくと安心です。
狭い空間で熱や湿気がこもりやすい場所は、短時間でも暑さを感じやすい場所です。
特に、脱衣室や浴室は湿度も高くなりやすいため、換気扇や窓を活用して、湿気を逃がす工夫が必要です。
キッチンは火を使うことで室温が上がりやすい場所です。
調理中は換気を行い、無理のない時間帯に調理するなど、暑さをため込まない工夫が大切になります。
また、高齢者が暮らす住まいでは、「設備を設置する」だけでなく「使いやすい」ことも重要です。
リモコンが手の届きやすい位置にあるか、窓やカーテンを軽い力で開け閉めできるか、水分を取りに行きやすい動線になっているかなどを確認しておきましょう。
建物の暑さ対策は命を守るバリアフリー

バリアフリーというと、段差をなくすことや手すりをつけることを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、高齢者が安心して暮らすためには、移動のしやすさだけでなく、室内環境の整え方も大切です。
暑さを感じにくい、のどの渇きを感じにくい、エアコンの使用を控えてしまう。そうした高齢者の特性を考えると、熱中症予防は本人の意識だけに頼るものではありません。
窓から入る日差しを抑えること、屋根や外壁から伝わる熱を減らすこと、風通しを整えること、エアコンを無理なく使えるようにすること。
こうした建物の工夫は、暑い季節を安全に過ごすための大切な備えです。
高齢者が暮らす住まいでは、「暑くなったら対処する」のではなく、「暑くなりにくい環境をつくる」という発想が重要です。
建物の暑さ対策は、快適に過ごすためだけのものではありません。
命を守り、自分らしい暮らしを続けるためのバリアフリーのひとつです。
お問い合わせはこちら↓
バリアフリー化の悩み介護リフォームの悩み、なんでもお声掛けくださいませ!

