高齢になり、足腰に不安を感じ始めたとき、まずは「杖」の使用を検討される方も多いのではないでしょうか。
杖を使い始める時期にあわせて考えたいのが、住まいのバリアフリーリフォームです。
毎日多くの時間を過ごす家の中には、身体のバランスを崩しやすい場所や、思わぬところでつまずいてしまう場所があります。
なかでも玄関は、鍵を開ける、ドアを動かす、靴を脱ぎ履きする、上がり框を上り下りするなど、様々な動作が重なる場所です。
この記事では、玄関で負担になりやすい動作に注目し、バリアフリーリフォームで住まいを整えるポイントをご紹介します。
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杖を使う方は、玄関のどんな動作で困りやすい?

玄関では、外から室内へ移動するまでに、様々な動作を続けて行う必要があります。
杖を使う方にとっては、歩くだけでなく、鍵やドアを操作する、杖を持ち替える、靴を脱ぎ履きするといった動作が重なるため、身体のバランスを崩しやすくなります。
玄関で負担になりやすい動作は、以下の通りです。
- 鍵を開ける・閉める
- 玄関ドアを開ける・閉める
- 玄関の中へ移動する
- 杖を置く・室内用の杖や福祉用具に持ち替える
- 靴を脱ぐ・履く
- 上がり框を上り下りする
- 玄関から室内へ移動する
次からは、これらの動作ごとに、玄関のバリアフリーリフォームでできる工夫を詳しくご紹介します。
鍵を開ける・閉める動作をラクにする3つの工夫
玄関の鍵を開けるときは、荷物の中から鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで回すという動作が必要です。
杖を持っている場合、鍵と杖で両手がふさがりやすく、さらに荷物や傘をもっていると、動作がバタつきやすかったり、身体のバランスを保ちながら鍵を操作することが難しくなります。
そのため、玄関周りには荷物や杖を一時的に置ける場所をつくり、鍵の操作に集中できる環境を整えることが大切です。
鍵を開ける・閉める動作をラクにするポイントは、次の3つです。
- 荷物を一時的に置ける場所をつくる
- 傘や杖の一時置き場を設ける
- スマートキーで鍵の操作を減らす
ここからは、それぞれの工夫について詳しく説明します。
荷物を一時的に置ける場所をつくる

川口技研 ホスクリーン
必須ではありませんが、玄関前にちょっと荷物を置けるスペースがあると、出入りがとてもスムーズになります。
鍵を開ける間だけ「ちょい置き」できる場所があると、動きがスムーズになります。
狭い玄関先ならば、リフォームのタイミングで、物を横に置いたり、引っかけたりする場所の確保しておくと良いでしょう。少しの工夫でストレスは減らせるかもしれません。
「ちょい置き」スペースは、雨の日ならさらに便利さを実感できます。
濡れた地面にカバンや買い物袋を直接置くのは抵抗がありませんか?これも荷物をぬらさずにおける場所が確保されていれば安心です。
普段の動きを振り返ってみて「玄関前でひょいと物を置く瞬間、あるかも」と思った方は、リフォームのタイミングで荷物置きスペースを作ることをおすすめします。
ちょっとした工夫ですが、毎日の出入りがグッと楽になりますよ。
参考:ホスクリーン(川口技研)
傘や杖の一時置き場を設ける

森田アルミ Vik「ヴィク」
例えば、鍵を開けるときに杖をドアに立てかけていませんか?
その杖が倒れてしまった時、いちいち屈んで拾うのは面倒ですよね。
また、上記にも少し記述しましたが、晴れた日は気にならなくても、雨の日の玄関前は意外と困ることが多いものです。濡れた傘をどうしよう…そんなお悩みはありませんか?
帰宅時に玄関先で杖や傘の扱いに困った経験は誰にでもあるかと思います。そんな時に「杖や傘のちょい置き場」があると便利です。
市販の小さめの傘立てでもいいですが、ちょっと杖や傘をひっかけておくフックなどがあるだけでも便利さが違いますよ。
また、濡れた傘をそのまま持ち込むと、水滴で床が滑りやすくなり、転倒の危険もあります。玄関脇に一時的な傘置きスペースを確保しておくと、濡れた傘をすぐに置けて安心です。
スマートキーで鍵の操作を減らす

LIXIL TOSTEM エルムーブ2(https://webcatalog.lixil.co.jp/iportal/CatalogViewInterfaceStartUpAction.do?method=startUp&mode=PAGE&catalogId=15308730000&pageGroupId=1&volumeID=LXL13001&designID=newinter&pagePosition=R)より引用
電子錠・スマートロック・スマートキーは、メーカーによって、スマートフォンやカードキー(タグキー)、リモコンなどがあります。
これらを導入すると、鍵を差し込んで回すという動作が不要になるため、スムーズに開錠して出入りできるようになります。テレビモニター付きのインターホンと連動できれば、お客様を迎えるときも便利です。
ただし、メリットもあればデメリットもあり、電子錠・スマートロック・スマートキーは、オートロック式になっているものも多く、鍵になるものや暗証番号を忘れると締め出されてしまいます。また、電池で動くタイプのものは電池切れにも注意が必要です。
物理的な鍵と特徴が違い一長一短あり高額なため、ご利用者様の身体状況や環境に合わせてよく検討が必要です。
玄関ドアを開けやすくする4つの工夫

玄関ドアは一般的に室内のドアよりも重く、開け閉めするときに大きな力が必要になることがあります。
杖を使う方は、片手で杖を持ちながら、もう一方の手でドアを操作することが多いため、ドアの重さや身体を一歩下げる動きによって身体のバランスを崩しやすくなります。
玄関ドアを開ける・閉める動作をラクにするポイントは、次の4つです。
- 玄関ドアの近くに縦手すりを設置する
- 開き戸を引き戸に変更する
- 後付けできる自動ドアを検討する
- 排水溝などがある場合は、杖先が入りにくいフタを選ぶ
ここからは、それぞれの工夫について詳しく説明していきます。
玄関ドアの近くに縦手すりを設置する
玄関ドアを開け閉めするときは、ドアの重さや動きに身体が引っ張られ、バランスを崩すことがあります。
特に、片手で杖を持ちながらもう一方の手でドアを操作する場合は、身体を支えられる場所が少なくなります。
そこで、玄関ドアの近くに縦手すりを設置すると、ドアを操作する前後に身体を支えやすくなります。
縦手すりは、動作に合わせて握る高さを変えやすく、立った姿勢を安定させたいときや、段差を上り下りするときにも使いやすい形状です。
また、手すりを握って身体を引き寄せる動作のサポートにも役立ちます。
設置するときは、ドアを開けた時に手すりが干渉しないか、扉や取っ手に手が挟まれないか、杖をつく位置と干渉しないかを確認します。
また、杖を左右どちらの手で使うかによって、使いやすい手すりの位置も変わります。
実際にドアを開け閉めする動作を確認し、むりなく手を伸ばせる位置に設置しましょう。
開き戸を引き戸に変更する


玄関のドアは開き戸が主流ですが、開き戸は扉を開けるときに一歩(半身)下げてから扉を引くという動作があるため、身体があおられて転倒する危険があります。また、引き戸ならドアを通過するときに扉を押さえなくてよいので通過しやすい利点があります。
そのためバリアフリーリフォームをする場合は、そのままの姿勢で開閉できる引き戸がおすすめです。
可能であればショールームなどに行って、軽い力で楽に開け閉めできるかどうかも確認しましょう。断熱引き戸は複層ガラスなどの重量で重くなっていることがあります。開閉をサポートする機能付きのものもメーカーによってラインナップされているので、そちらを選ぶとさらにドアの開閉が楽になります。
また、手すりも動作に合わせて設置をするとさらに安全になります。介護保険の住宅改修などを利用して、トータルでリフォームを考えるとよいでしょう。
後付けできる自動ドアを検討する

DORMA ハートカムドアクローザ 杉田エース株式会社より引用(https://www.sugita-ace.co.jp/products/dorma/index.html)
開き戸を引き戸に変更するには、扉を引き込むためのスペースが必要です。
玄関周りの壁や収納などによって、引き戸を設置するためのスペースを確保できない場合は、既存の開き戸に後付けできる自動ドアを検討する方法があります。
後付け式の自動ドアは、製品や既存の玄関ドアの状態によっては、大がかりな壁工事をせずに設置できる場合があります。そのため、現在使用している開き戸を引き戸に変更するよりも、工事の範囲や費用を抑えられることがあります。
ただし、全ての玄関ドアに後付けできるわけではありません。扉の重さや大きさ、開閉方向、電源の有無などを確認し、設置できる製品があるかどうかを施工会社に確認しましょう。
参考記事
杖先が入りにくい排水溝のフタを選ぶ

玄関排水ユニット GS 株式会社シマブン(https://shimabun.jp/gsg/)
玄関ドアの前には、雨水を逃がすための排水溝が設けられている場合があります。
排水口のふたに大きな隙間があると、杖先が入り込んだり、段差に引っかかったりすることがあります。
そのため、杖を使う方が通る場所では、杖先が入り込みにくい細かな目のフタを選ぶことが大切です。
また、フタがぐらついていないか、濡れた時に滑りやすくないかも確認しておきたいポイントです。
既存の排水溝がある場合は、フタの形状だけでなく、固定状態や表面の滑りにくさまで確認し、安全に通行できるように整えたいですね。
玄関内を安全に移動するための3つの工夫

玄関ドアを開けて入った後は、靴を脱ぎ履きする場所まで移動する必要があります。
玄関内には、靴や傘、収納などが置かれていることも多く、杖をつくスペースが十分に確保できないと、身体のバランスを崩す原因になることがあります。
また、雨の日は靴や傘から落ちた水によって、床や杖先が滑りやすくなるため注意が必要です。
玄関内を安全に移動するためのポイントは、次の3つです。
- 移動を支える手すりを設置する
- 靴や靴箱、収納が動線をふさいでいないか確認する
- 水にぬれても滑りにくく、乾きやすい床材を選ぶ
ここからは、それぞれの工夫について、詳しく説明します。
移動を支える手すりを設置する

玄関から靴を脱ぎ履きする場所までの移動を支えるには、横手すりが使いやすい場合があります。
「縦手すり」は、しっかり握って身体を引き寄せたり、身体を支えたりすることで、力を入れやすくなるのが特徴です。
「横手すり」は、手を滑らせるように動かしながら身体を支えて移動できるのが特徴で、常に強く握るというよりも軽く支えながらバランスをとるイメージで使われます。
取り付け位置の高さは750~850mm程度が標準目安です。
ただし、使いやすい高さは使用者の身長や腕の長さ、姿勢、身体状況によって異なります。
また、手すりは必要な場所まで連続して設置されていることが大切です。
途中で手すりが途切れると、次の支えへ手を伸ばす間に身体が不安定になることがあります。
靴や靴箱、収納が動線をふさいでいないか確認する

玄関には、意外と多くのものが置かれています。
靴や傘だけでなく、靴箱以外の収納、荷物、宅配物、掃除道具など、置かれているものは家庭によって様々です。
杖を使う方にとっては、こうしたものが玄関の動線をふさいでいると、杖をつく場所が狭くなったり、杖先や足先が物に当たったりすることがあります。
特に玄関ドアから靴を脱ぎ履きするまでの間は、杖を無理なく動かせる幅を確保することが大切です。
床に出したままの靴や傘立て、張り出した収納などが、移動の妨げになっていないか確認しましょう。
また、収納を新しく設置する場合は、収納量だけでなく、扉を開けたときに通路をふさがないか、杖をつく位置と干渉しないかも確認します。
玄関に置く物を整理し、よく使うものは手の届きやすい場所に収納することで、杖を使いながらでも安全に移動しやすい動線が整います。
水にぬれても滑りにくく、乾きやすい床材を選ぶ
雨の日の玄関は、濡れた靴や傘から落ちた水によって、床が滑りやすくなります。
杖を使う方は、足元だけでなく杖先も滑る可能性があるため、床材の選び方には特に注意が必要です。
玄関の床材は、水にぬれても滑りにくく、表面に水が残りにくいものを選びましょう。
また、水を吸い込みにくく、乾きやすい素材であれば、濡れた状態が長く続きにくくなります。
ただし、滑りにくさを重視して、表面の凹凸が大きな床材を選ぶと、杖先や足先が引っかかることがあります。滑りにくさだけでなく、つまずきにくさとのバランスも大切です。
屋外用と室内用の杖や他の福祉用具を持ち替えやすくする2つの工夫

玄関では、屋外用の杖から室内用の杖に持ち替えたり、歩行器などのほかの福祉用具に切り替えたりする場面があります。
このとき、身体を支えていた杖から一度手を離すため、次の支えに移るために身体のバランスを崩さないことが大切です。
安全に持ち替えるポイントは、次の2つです。
- 杖を手放した後につかまれる場所をつくる
- 杖を手の届く位置に立てて置ける場所をつくる
ここからは、それぞれの工夫について詳しくご紹介します。
杖を手放した後につかまれる場所をつくる

屋外用の杖から室内用の杖や、ほかの福祉用具に持ち替えるときは、一時的に杖から手を離す必要があります。
その間に身体を支えられるよう、手すりを設置したり、靴箱などの収納に手を添えられるようにしたり、いすに座って持ち替えられる環境を整えることが大切です。
ただし、新しく手すりを設置するときは、設備の使いやすさだけでなく、普段どこに手をついて身体を支えているかを確認しましょう。
これまで靴箱に手を添えていた方に、離れた位置へ新しく手すりを設置すると、動作を変えなければならず安定した動作ができなくなったり、手すりが使用されない、といった原因となります。
なるべく日常の動作を大きく変えず、普段手をついている場所や身体の向きに合わせて、手すりやいすなどを配置することが大切です。
なお、靴箱や収納を身体の支えとして使用する場合は、ぐらつきや転倒のおそれがないよう、壁などにしっかり固定されているかも確認しましょう。
杖を手の届く位置に立てて置ける場所をつくる

スタンドアローン 壁面用 有限会社ウォーターベル(https://www.waterbell.net/standalone/)
屋外用と室内用の杖を持ち替えるときは、杖を置く位置をあらかじめ決めておくことが大切です。
杖の定位置をつくることで、玄関を出入りするたびに置き場所を探す必要がなくなり、いつでも同じ動作で杖を持ち替えやすくなります。
杖の置き場所には、小さめの傘立てのような杖立てや、壁に取り付ける杖ホルダーなどを活用できます。
ストラップがついた杖であれば、壁面のフックにかけて保管する方法もあります。
置き場所を設定する際には、杖を使う方が立った状態や座った状態から、無理なく手を伸ばせる位置を選びます。
また、杖が倒れたり、床に滑り落ちたりしないよう、安定して置ける形状であることも大切です。
杖が倒れると、拾うために身体をかがめる必要があり、その動作でバランスを崩す恐れがあります。
通路をふさがず、手を伸ばせばすぐ取れる位置に杖の定位置を作りましょう。
靴を脱ぐ・履く動作をラクにする4つの工夫

靴を脱ぎ履きする場面では、立ったまま靴を脱ぎ履きするか、いすや上がり框などに座って行うかによって必要なリフォームが変わります。
立ったまま靴を脱ぎ履きする場合は、片足立ちになったり、身体をかがめたりするため、バランスを崩しやすくなります。
そのため、身体を支えられる手すりなどを設置することが大切です。
座って靴を脱ぎ履きする場合は、座りやすさだけでなく、安全に立ち上がれることも意識して、いすの形状や手すりの位置を検討します。
どちらの場合でも、靴を脱ぎ履きする位置から手の届く位置に靴べらを用意しておくと便利です。
杖を置く位置と一緒に定位置を決めておくと、一連の動作がスムーズにつながります。
靴を安全に脱ぎ履きするためのポイントは、次の4つです。
- 縦手すりやL字型手すりを設置する
- 足元に空間があり、ひじ掛けがついたいすを設置する
- 玄関が狭い場合は、折り畳み式のいすを設置する
- 座ったまま身体の向きを変える方法もある
ここからは、それぞれの工夫について、詳しくご紹介します。
縦手すりやL字型手すりを設置する

縦手すりは、しっかりと握って身体を引き寄せたり、姿勢を支えたりするときに力を入れやすい形状です。
そのため、立ったまま靴を脱ぎ履きするときや、座って靴を脱ぎ破棄した後に立ち上がる時のささえとして役立ちます。
玄関ドアから靴を脱ぎ履きする場所まで横手すりを設置する場合は、横手すりと縦手すりが一体になったL字型手すりも検討します。
横部分に手を添えながら玄関内を移動し、縦部分を握って靴の脱ぎ履きや立ち上がりを行えるため、移動から次の動作まで支えを途切れさせにくくなります。
設置の際は、杖を持つ手や身体の向き、靴を脱ぎ履きする動作まで確認して、位置や高さを決めましょう。
足元に空間があり、ひじ掛け付きのいすを設置する

4070(ヨンマルナナマル) 株式会社弘益 より引用(https://www.koeki-net.com/blog/p4364/)
座って靴を脱ぎ履きする場合は、上がり框に直接座るよりも、いすを使うことで立ち座りや姿勢の保持がしやすくなり、安定して動作できる場合があります。
ただし、いすは座れれば良いわけではありません。
立ち上がるときは、足を身体の後ろに引き、上半身を前に倒してから身体を持ち上げます。
そのため、座面の下に足を引ける空間のあるいすの方が、立ち上がりやすくなります。
また、ひじ掛けがあると、腕の力を使って身体を押し上げられるため、足腰にかかる負担の軽減にもつながります。
狭い玄関なら折り畳み式いすを検討する

OLISU 株式会社 内外より引用(https://www.oj-naigai.co.jp/products/chair/olisu.html)
玄関が狭く、常設のいすを置くと通路をふさいでしまう場合は、折り畳み式のいすを検討します。
なかでも壁付け式の折り畳みいすは、使用しないときに座面を壁側へ収納できるため、玄関の通路幅を確保しやすいことが特長です。
また、壁にしっかり固定されていれば、置き型の折り畳みいすよりもぐらつきにくく、安定して使いやすくなります。
置き型の折り畳みいすを使用する場合は、使わない時に倒れたり、通路へはみ出したりしないよう、収納場所を決めておくことが大切です。
設置するときは、座面を広げた状態でも杖をつく場所や立ち上がるためのスペースが確保できるかを確認します。
また座った状態から使える手すりがあるか、立ち上がる時に身体を前へ倒せる空間があるかも大切なポイントです。
壁付け式のいすは身体を支える設備となるため、壁の下地や固定方法をよく確認し、安全に使用できるように設置しましょう。
座ったまま身体の向きを変える方法もある

いすを設置する位置や座面の高さによっては、座って靴を脱ぎ履きした後、そのまま身体の向きを変えて上がり框を越える方法もあります。
上がり框をまたぐのではなく、座った状態で土間側から室内側へと足を移し、身体の向きを変えてから立ち上がるため、大きな段差に足を上げる動作を減らせることが特長です。
足があがりにくく、上がり框を歩いて上り下りすることが難しい方にとっては、足腰にかかる負担を軽減できる可能性があります。
ただし、安全に動作するためには、上がり框といすの座面の高さや距離、身体の向きを変えるためのスペースを調整する必要があります。
また、立ち上がる時につかまれる手すりがあると、より安定して動作が可能です。
全ての方に適した方法ではないため、実際の身体状況や普段の動作を確認しながら、いすや手すりの位置を検討しましょう。
上がり框の段差を上り下りしやすくする3つの工夫

玄関で行う動作のなかでも、上がり框の上り下りは、杖を使う方にとって大きな負担になりやすい動作です。
特に古い住宅では、上がり框の段差が高いこともあり、足を大きく持ち上げたり、片足で身体を支えたりする必要があります。
そのため、足腰に不安がある方は、身体のバランスを崩しやすくなるだけでなく、足が十分に上がらず、立ったまま上がり框を越えることが難しい場合も少なくありません。
上がり框の段差を上り下りしやすくするポイントは、次の3つです。
- 縦手すりや据え置き型の手すりを設置する
- 式台や踏み台で段差を小さくする
- 段差の境目を色や照明で見やすくする
ここからは、それぞれの工夫について詳しく説明します。
縦手すりや据え置き型手すりを設置する

上がり框を上り下りするときに、足は上がるものの、身体のバランスを崩しやすい方は、縦手すりや据え置き型の手すりの設置を検討します。
普段から壁に手をついて上がり框を登りしている方は、その動作に合わせて壁面への縦手すりの設置を検討します。
一方、壁側に手をつかない方や、手を伸ばしやすい位置に壁がない場合は、据え置き型手すりが使いやすいことがあります。
据え置き型手すりを設置する場合は、足元の土台につまずかないか、玄関の通路や靴の脱ぎ履きの動作を妨げないかも確認が必要です。
手すりを設置するときは、普段どちらの手すりで杖を使い、どちらの手で身体を支えているかを確認することが大切です。
なるべく、日常の動作を大きく変えないために、バリアフリーリフォームをする前に普段の動作をよく観察しましょう。
式台や踏み台で段差を小さくする

上がり框まで足を上げることが難しく、立った姿勢のまま段差を越えにくい方は、式台や踏み台を設置して、一度に上る段差を小さくする方法を検討します。
設置する前に、無理なく足を上げられる高さを実際の動作で確認し、その高さに合わせて式台や踏み台の寸法を決めます。
足を上げられる高さと上がり框の高さによっては、1段ではなく、2段や3段に分けることもあります。
ただし、段数を増やすと玄関内で必要となるスペースも広くなります。
踏み台に足をしっかり乗せられる奥行があるか、杖をつく場所や方向転換するスペースを確保できるかも確認が必要です。
式台や踏み台は、足を乗せた時にずれたり、ぐらついたりすると危険です。
置くだけにせず、床や上がり框などにしっかりと固定して使用します。
また、縦手すりや据え置き型手すりと組み合わせることで、より安全に段差を上り下りしやすくなります。
段差の境目を色や照明で見やすくする

日当たりのよい場所は居室として使われる傾向があるため、住宅の配置や時間帯によっては、玄関が暗くなりやすいことがあります。
特に視力が低下している方や、明るさの変化に目が慣れにくい方は、上がり框と土間の色が似ていると、段差の境目を見分けにくくなります。
そのため、上がり框の端部と床面に色の差をつけたり、段差の周辺を照明で明るくしたりして、段差の位置を確認しやすくなる方法が有効です。
上がり框の端部に色をつける簡単な方法のひとつとして、色付きの滑り止めテープを貼る方法があります。
段差の境目を見やすくすると同時に、足元の滑りを抑える効果も期待できます。
照明を設置するときは、足元に影ができて段差を見誤らないよう、上がり框の踏面や端部まで明るく照らせる位置を検討します。
足元灯もあわせて設置すると、暗い時間帯でも段差の位置を確認しやすくなり、踏み外しや転倒の危険を減らすことにつながります。
玄関から室内まで途切れない動線をつくる2つの工夫

上がり框を越えた後は、玄関から廊下、さらに室内へと移動します。
この時、玄関周りだけを安全に整えても、廊下へ移る途中で手すりや福祉用具が途切れたり、床材が変わって滑りやすくなったりすると、身体のバランスを崩す原因になります。
玄関から室内まで、安全でスムーズな動線を作るためのポイントは、次の2つです。
- 手すりや福祉用具を連続して安全につなぐ
- 廊下にも滑りにくい床材を使う
ここからは、それぞれの工夫について詳しく説明します。
手すりや福祉用具を連続して安全につなぐ

玄関や室内へ移動するときは、杖や手すり、歩行器など、身体を支えるものが途中で途切れないようにすることが大切です。
たとえば、上がり框を越えた後に、玄関の手すりが終わり、廊下までの手すりまで距離があると、その間は杖だけで身体を支えながら移動する必要があります。
杖を室内用に持ち替える場合や、歩行器などの他の福祉用具へ切り替える場合も、持ち替えする間を支えられる場所があると安心です。
そのため、玄関の手すりから廊下の手すりまで無理なく手を移せるか、室内用の杖や歩行器を手の届く位置に置けるかを確認します。
手すりを連続して設置することが難しい場合は、複数の縦手すりを配置し、両手で交互につかみ替えながら移動する方法もあります。
また、力をかけてもぐらついたり転倒しないよう、壁や床にしっかり固定されていれば、靴箱などの家具や収納を身体の支えとして活用できる場合もあります。
廊下にも滑りにくい床材をつかう

CFシート-H 東リから引用(https://www.toli.co.jp/product/search/floor_product/246)
玄関から室内へ続く廊下にも、杖先や足元が滑りにくい床材を使用します。
適度なクッション性がある床材を選ぶと、万が一転倒した場合に、身体へ伝わる衝撃やケガのリスクを抑えられる可能性があります。
ただし将来、歩行器や車いすを使う可能性がある場合には、床面に車輪の跡が残ってしまう可能性があります。
長い目でみて、使いやすい床材を選択しましょう。
将来、車いすを使う可能性を考える

将来の身体状況を正確に予測することは、誰にもできません。
ただし、身体状況が変化し、歩行器や車いすを使う可能性も視野に入れておくと、後から変更しやすい玄関を計画できます。
将来を想定して、今のうちにすべてを車いす対応にする必要はありません。
身体状況が変化したとき、住まいを改修するだけでなく、福祉施設や介護サービスを利用するなど、別の方法を選択する可能性もあります。
必要以上に備えることで、現在の暮らしにくさや、工事費の増加につながることもあるため、今の生活を優先しながら考えることが大切です。
一方で、玄関リフォームや大規模な工事を予定している場合には、後から施工すると手間や費用が掛かりやすい設備を、あわせて整えておく方法もあります。
ここからは、将来の変化に備えて、杖を使いやすくするリフォームのタイミングで、一緒に検討しておきたいポイントをご紹介します。
玄関に車いす置き場を確保する

将来、車いすを使用する場合に備えて、玄関周りに車いすを置けるスペースがあるか確認しておきます。
現在の玄関に十分な空きスペースがない場合でも、靴箱や収納の一部を撤去することで、車いす置き場を確保できることがあります。
今すぐ収納を減らす必要はありませんが、将来、車いすを置く必要が生じた時に、どの収納を移動または撤去できるかをあらかじめ考えておくと、変更しやすくなります。
そのため、杖を使いやすくするリフォームのタイミングで玄関に置いてあるものを少しずつ整理し、収納スペースに余裕を持たせておくと、必要になった場面でも慌てずに対応することが可能です。
車いす置き場を検討するときは、収納できる広さだけでなく、出し入れのしやすさや玄関の通路をふさがないかも確認しましょう。
杖と車いすでは必要な広さが異なりますが、通路をふさがないことや、安全に移動できる動線を確保するなど共通するポイントも多くあります。
現在の暮らしを優先しながら、将来変更しやすいように一つひとつ整えておくことで、身体状況が変化したときにも対応しやすくなります。
玄関収納を撤去し、車いす置き場を確保した施工事例

玄関周りの使い勝手を向上させるため、もともとあった玄関収納を一度全て撤去し、車いすの収納を想定した新しい造作収納を設けました。
下部には車いすがスムーズに収まるスペースを確保し、上部には外出時に必要なものを収納できるよう、棚を再構成しています。
さらに、別の場所も棚を作り直すことで、全体的に収納効率が上がり、車いすや靴、周辺用品がすっきりと収まる、見た目にも機能的な玄関になりました。
【R.31】車いすで快適に暮らせる家へ|和室→洋室・浴室の集合住宅バリアフリーリフォーム

上がり框を越えるのが難しくなるため、他の出入口をつくることを頭の隅にいれておく

段差解消機設置の様子。リビングの窓を第2の玄関口とし、外には段差解消機を設置しました。
自力で歩けるうちは玄関から出入りできても、車いすを使う生活になると、上がり框を越えることが難しくなる場合があります。
上がり框の段差を解消する方法には、段差解消機を設置するなどの選択肢があります。
ほかにも、設置スペースや費用面を抑え、1階にある掃き出し窓を「第2の玄関」として活用する場合があります。
庭や駐車場などにつながる掃き出し窓がある場合は、将来、その場所が新しい出入口になる可能性も頭の隅に入れておきましょう。
今すぐ出入口として整備する必要はありませんが、リフォームは物を整理する絶好のタイミングです。
掃き出し窓の近くに、長く使っていないものや家具が置かれていませんか。
窓の前に大きな収納や動かしにくい家具を配置すると、将来、出入口として使いたいときに大がかりな移動が必要になります。
杖を使いやすくするリフォームに合わせて、掃き出し窓のまわりを整理しておくと、現在の暮らしがすっきりするだけでなく、将来、身体状況が変化したときにも対応がしやすくなります。
リビングの掃き出し窓を第2の玄関にした施工事例

今回のご利用者様はご家族で暮らしており、ご主人が車いすを利用しての生活となったことで今回の改修に至りました。
家と外を出入りするのに介助者に負担なく、可能なら外出も自力で行いたい。その願いから、車いすを利用したまま出入りできる方法を探すことになりました。
元々あった玄関は残しつつ、第2の玄関として、リビングに直接入ることができるようにリビングにあった窓を利用した出入り口を作成。外には上下に昇降する段差解消機を設置することにより、車いすに乗車したまま家と外の出入りが可能になりました。
【R.19】リビングの窓を玄関へ|段差解消機で駐車場→リビングの車いすの移動を楽にする【施工事例】

大規模に工事をする予定なら、1階の床を下げて上がり框を低くする

杖を使いやすくするために大規模なリフォームを行う場合は、1階の床そのものを下げて、上がり框の段差を低くする方法もあります。
床の高さを変更するため、工事の規模は大きくなり、車いすでの生活を想定したリフォームに近い内容となります。
身体状況が変化するたびに何度もリフォームすることげ抵抗がある場合は、将来の車いす利用も視野に入れ、最初から段差を低くしておくのも選択肢のひとつです。
車いすで通行できる玄関では、屋外から雨水が入りにくいよう配慮しながら、上がり框の段差をできるだけ小さく整えます。
車いすで通行できる程度まで上がり框を低くできれば、杖を使う方にとっても、足を大きく上げる必要がなくなり、玄関の出入りがラクになります。
ただし、床を下げる工事では、玄関だけでなく、室内の扉や水回り、階段、床下の構造などにも影響する可能性があります。
建物全体の高さ関係や雨水対策を確認しながら、設計者や施工会社と検討しましょう。
玄関の上がり框を低くした施工事例

玄関の上がり框は、車いすの移乗のしやすさに配慮し、段差を最小限の高さに抑えています。
玄関を完全にフラットにすることも検討しましたが、外からの砂やほこり、雨水が屋内に入りやすくなる点を考慮し、今回はあえて小さな段差を設けることになりました。
内と外をゆるやかに区切りながら、使いやすさと清潔さのバランスを大切にした設計となっています。
【R.44】のびのびと暮らせる毎日へ。家族のつながりを育む車いす対応の住まい

大規模に工事をする予定なら、電動車いすに備えてコンセントを設ける

杖を使いやすくするためのリフォームで、壁を壊すような大規模な工事を予定している場合は、コンセントなどの電気配線を見直す良い機会です。
将来、電動車いすや電動カートなどを使用する可能性がある場合は、玄関や保管場所になりそうなところの近くにコンセントがあると、充電しやすくなります。
後からコンセントを増設しようとすると、壁や天井を開ける工事が必要になることがあります。
そのため、壁を開いたタイミングで、将来の充電場所を想定しておくと、追加工事の手間や費用を抑えられる可能性があります。
コンセントの位置は、車いすを置いた時にコードが通路を横切らない場所を選びます。
今すぐ電動車いすを使う予定がなくても、玄関周りのコンセントは、掃除やほかの電気機器にも使用できます。
将来の保管場所と電源の位置をあわせて考えておくと、身体状況が変化したときにも対応しやすくなります。
玄関にコンセントを増設した施工事例

玄関から入ってすぐの場所に、車いす置き場を設けました。
玄関に専用の車いす置き場を確保することで、屋外用と屋内用の車いすの乗り換えがスムーズに行えるようになり、出入りの負担を軽減しています。
また、電動車いすの使用も想定し、充電用のコンセントも設置しました。
【R.44】のびのびと暮らせる毎日へ。家族のつながりを育む車いす対応の住まい

玄関のバリアフリーリフォームに介護保険は使える?

要支援・要介護認定を受けている方が、自宅で安全に生活するために住宅改修を行う場合は、介護保険を利用できることがあります。
介護保険の住宅改修の対象となる工事は以下の通りです。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 滑りの防止および移動の円滑化のための床または通路面の材料の変更
- 引き戸などへの扉の取り換え・引き戸などの新設
- 洋式便器などへの便器の取り換え
- その他①~⑤の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
玄関のバリアフリーリフォームでは、手すりの取り付けや上がり框の段差解消、滑りにくい床材の変更、開き戸から引き戸への交換などが対象となる可能性があります。
ただし、対象となる工事であっても、身体の状態や住宅の状況から、その工事が必要だと認められることが条件となります。
限度額も決まっているため、注意が必要です。
介護保険を利用する場合は、原則として工事を始める前に申請が必要です。
先に工事を始めると、給付が受けられないので、担当のケアマネージャーや自治体、介護保険の住宅改修に対応している施工会社へ事前に相談しましょう。
介護保険の住宅改修について詳しく知りたい方は下記のリンクをご覧ください。
介護保険とリフォーム

介護保険の住宅改修と福祉用具貸与の違い


介護保険では、住まいに固定する工事は「住宅改修」、工事をせずに設置・使用するものは「福祉用具貸与」として扱われるのが基本です。
イメージしやすく考えるなら、家を逆さまにひっくり返した時に、家に取り付けられたまま残るものが住宅改修、落ちてくるものが福祉用具貸与です。
例えば、壁に固定する手すりや、床を工事して段差を解消するものは住宅改修にあたります。
一方据え置き型手すりや歩行器など、取り外して移動できるものは福祉用具貸与にあたるケースが多いです。
ただし、これはあくまでわかりやすくするための目安です。
製品の種類や設置方法によって扱いが異なる可能性があるため、実際に介護保険を利用するときは、ケアマネージャーや福祉用具専門員、自治体などに確認しましょう。
玄関の一連の動作が途切れないよう整えよう

杖を使いやすくするための玄関リフォームでは、手すりを取り付ける、段差を小さくするといった設備を一つずつ個別に考えるだけでは十分とは限りません。
玄関ドアの前に立って、ドアを開け、靴を脱いで室内に入るまでの一連の動作を確認し、どこで身体がふらつくのか、どこで杖から手を離すのか、次に何につかまるのかを整理することが大切です。
また、必要なリフォームは、使用する杖の種類や身体の状態、普段の動作によってことなります。
一般的な寸法や設備だけに合わせるのではなく、実際に玄関を使う方の動きに合わせて計画しましょう。
将来の身体状況を全て予測することはできませんが、今の暮らしやすさを大切にしながら、後から変更しやすい玄関に整えておくのも1つの考え方です。
玄関から室内まで身体を支えるものが途切れず、いつもの動作で安心して出入りできる住まいを目指しましょう。
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