初めて杖を使う時、これまでとの勝手の違いに戸惑う方も多いのではないのでしょうか。
どのような杖を選べばよいのか、どのように杖を使えばよいのかなどを考えると同時に、確認しておきたいことの1つが住まいの環境です。
毎日の時間の多くを過ごす自宅には、杖を使う前には気にならなかった小さな段差や滑りやすい床、動きにくい通路などが隠れていることがあります。
杖を使い始めるタイミングは、現在の住まいに危険な場所や使いにくい場所がないかを見直し、必要に応じてバリアフリーリフォームを検討するよい機会でもあります。
この記事では、杖を使う方に共通する特徴や住環境で注意したい点、代表的な杖の種類、杖を使い始めたときに行うバリアフリーリフォームの前に確認しておきたいことについて詳しくご紹介します。
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杖を使う方に共通する特徴と注意したい点とは

杖は、歩行に不安がある方の身体を支え、安全に移動するために使用する福祉用具です。
高齢になって足腰の力が低下した方だけでなく、病気やケガ、麻痺、関節の痛みなどによって歩行時に身体のバランスを保ちにくい方にも使用されています。
杖を使用する主な目的は以下の通りです。
- 歩行時のバランスを整える
- 足腰にかかる負担を軽減する
- 痛みのある足にかかる体重を分散する
- 安定した歩行パターンを身につける
- 歩く速さや移動できる距離の改善を支える
- 転倒への不安を軽減する
杖を床につくことで、身体を支える面が増え、歩行時のふらつきを抑えやすくなります。
また、足だけで支えていた体重の一部を腕や杖に分散できるため、足腰や間接にかかる負担の軽減にもつながります。
一方、杖を使って安全に移動するためには、杖そのものの使い方だけでなく、住まいの広さや床の仕上げ、段差などにも注意が必要です。
杖を使う方の住環境を整えるうえで、特に注意したい点は以下の通りです。
- 杖の振り幅を考えた通路や出入口の幅を確保する
- 杖先が入り込みやすい小さな溝や、わずかな段差に注意する
- つまずきにくく、滑りにくい床を選ぶ
- 立ち上がりやすいいすの形状を選ぶ
次から、それぞれの注意点について詳しく説明します。
杖の振り幅を考えた通路や出入口の幅が必要

横浜市福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル〔建築物編〕より引用
| 番号 | イメージ | 動作寸法 | 寸法の考え方と留意事項 |
|---|---|---|---|
| ① | ![]() |
松葉杖使用者と歩行者のすれ違い寸法 140cm |
松葉杖使用時に要する幅(95cm)に人の歩行に要する幅(45cm)を加えたものです。 |
| ② | ![]() |
松葉杖使用者と車いす使用者のすれ違い寸法 185cm |
松葉杖使用時に要する幅(95cm)と車いす使用者が出入口等を通行しやすい幅(90cm)を加えたものです。 |
杖を使って歩くときは、足元だけでなく、杖を前方や左右に振りだすためのスペースが必要です。
杖の振り幅は使用する杖によって異なります。上の図は、杖を使って移動する際に必要となる通路幅の目安を示したものです。
特に、松葉杖やロフストランドクラッチを両手で使う場合には、身体の横に杖をつくため、通常の歩行よりも広い幅を使います。
片手で使うT字杖でも、歩行時のふらつきや杖の振り幅によって、壁や家具に杖がぶつかることがあります。
屋内で杖を使う場合、通路や出入口が狭いと、杖を十分な位置につけず、身体を支えにくくなる可能性があります。
また、ドア枠や靴箱などに杖があたり、バランスを崩す原因にもなります。
そのため、バリアフリーリフォームでは、扉の有効開口だけでなく、各部屋のドアの前後や家具の位置、廊下や階段などの通路に、杖を無理なく動かせる幅があるか確認することが大切です。
必要な幅は、使用する杖の種類や身体の状態、杖を片手または両手で使うかによって異なります。
実際に杖を使って玄関を出入りしてもらい、杖が壁や収納に当たらないか、身体を支えながら方向転換できるかを確認したうえで、リフォームを計画しましょう。
小さな溝やわずかな段差に注意

玄関排水ユニット GS 株式会社シマブン(https://shimabun.jp/gsg/)
杖を使って歩く方にとって、排水口の溝やタイルの目地、床材の継ぎ目など、わずかな凹凸が転倒のきっかけになることがあります。
特に杖の先端は接地面が小さいため、排水口のフタにある細い溝や、タイルの目地に入り込むことがあります。
杖先が引っかかったり、予定していた位置に杖をつけなかったりすると、身体を十分に支えられず、バランスを崩す可能性があります。
また、玄関マットやカーペットの端がめくれていると、杖先だけでなく足先も引っかかりやすくなり危険です。
数ミリ程度の段差でも、足を十分に上げにくい方にとっては、つまずきの原因になるため注意が必要です。
目立つ段差だけでなく、小さな溝や床のわずかな凹凸まで確認し、杖と足のどちらも引っ掛かりにくい床面を整えましょう。
つまずきにくく、滑りにくい床を選びたい

杖を使う方にとって、床の滑りやすさは歩行時の不安につながります。
床が滑りやすい素材の場合、足元だけでなく杖先も滑る可能性があり、転倒のリスクが高まります。
特に、玄関や浴室、トイレなど、水に濡れやすい場所では注意が必要です。
一方で、滑りにくさを重視しすぎて床面の凹凸が大きい床材を選ぶと、足先や杖先が引っかかり、つまずきやすくなることがあります。
床材を選ぶときは、デザインや掃除のしやすさだけでなく、使用する場所に応じて、濡れた状態での滑りにくさや、杖先と足先が引っかかりにくいかも配慮し、安全に歩ける床面を整えましょう。
立ち上がりやすい、いすの形がある

靴やズボンをはく、脱ぐといった、かがむ、しゃがむ、動作をするときは、いすに座って行うことで、身体のふらつきを抑えやすくなり、安全な場合があります。
ただし、いすは座れればよいわけではありません。
立ち上がりやすい形状があるため、特徴を知ったうえで選ぶことをおすすめします。
いすから立ち上がるときは、足を身体の後ろに引き、上半身を前に倒してから身体を持ち上げます。
そのため、座面の下に足を引けるスペースがあるいすの方が、立ち上がりの動作をしやすくなります。
また、ひじ掛けがあると、腕の力も使って身体を押し上げられるため、足腰への負担を軽減できます。
いすを購入する際は、座面の高さだけでなく、足元が開いているか、ひじ掛けを握りやすいか、座った状態から安全に立ち上がれるかを確認しましょう。
杖にはどんな種類がある?代表的な4つを紹介
杖は、身体の状態や使用する目的によって、様々な種類に分けられます。
ここでは、代表的な4つをご紹介します。
杖の種類や長さは、使用する方の体格や歩行能力、杖にどの程度体重をかけるか合わせて選ぶことが大切です。
身体に合っていない杖を使用すると、かえって歩きにくくなったり、身体に負担がかかったりすることがあります。
杖を選ぶ際は、医師や理学療法士、福祉用具専門相談員などに相談し、実際の歩き方を確認しながら調整しましょう。
T字型杖

横浜市福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル〔建築物編〕より引用
持ち手と支柱がT字型になった、一般的な形状の杖です。
足腰の力が弱くなった高齢者や、慢性関節リウマチなどによって歩行に不安がある方に使用されています。
また、脳血管障害などによる片マヒがある方にも多く使われています。
比較的軽く、片手で扱いやすいことが特長です。ただし、杖だけで体重の大部分を支えることには向いていないため、ある程度自力で立ったり、歩いたりできる方に適しています。
製品によっては、プッシュボタンなどで支柱の長さを段階的に調整できますが、ボタンが確実に固定されているか確認してから使用しましょう。
多脚型杖

横浜市福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル〔建築物編〕より引用
杖先が3本から5本程度に分かれ、床に接する面積が広くなっている杖です。
多点杖や多脚杖とも呼ばれます。
脳血管障害による片マヒがあり、T字型よりも安定した支えを必要とする方などに使用されています。
支持面が広いため、杖に体重をかけやすく、立っている時や歩き始めの身体を支えやすいことが特長です。
また、製品によっては、手を離しても自立するものがあります。
一方で、杖先の全てが床に接していないと、十分な安定性を得られません。
傾斜や段差、凹凸のある床では杖先が浮くこともあるため、使用する場所には注意が必要です。
ロフストランドクラッチ

横浜市福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル〔建築物編〕より引用
支柱の途中に手で握るグリップがあり、その上部に前腕を支えるカフがついた杖です。
前腕支持杖とも呼ばれます。
下肢の骨折や切断、下肢マヒ、股関節症、膝関節症などがあり、歩行時に強い支えを必要とする方に使用されています。
片手で使う場合と、両手で使う場合があります。
グリップと前腕の2か所で身体を支えるため、T字杖よりも支持力が高いことが特長です。
前腕でも支えられるため、握る力だけに頼らずに使用できます。
ただし、腕や上半身への負担が大きくなることもあります。
カフやグリップの高さを身体に合わせて調整し、正しい使い方を確認することが大切です。
松葉杖

横浜市福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル〔建築物編〕より引用
支柱の上部に脇当てがあり、中央付近に手で握るグリップがついた杖です。
一般的には、左右一対で使用します。
骨折や手術後など、一時的に片足へ体重をかけられない方のほか、下肢の機能に障害があり、歩行時に強い支えを必要とする方に使用されています。
松葉杖では、主にグリップを握った手と腕で身体を支えます。
脇当ては身体を安定させるために使うもので、脇に体重を預けすぎないように注意が必要です。
両手で使用するため、T字杖などと比べて歩行時の横幅が広くなります。
住宅内で使用する場合は、通路や出入口の幅、家具との間隔なども確認しておきましょう。
杖を使用しやすいようにバリアフリーリフォームの前に杖使用者が確認しておくポイント

杖を使用しやすいようにバリアフリーリフォームを考えるときは、段差や手すりの位置だけでなく、実際に杖を使う方の動作を確認することが大切です。
同じ杖を使っていても、身体の状態や歩き方、玄関で困りやすい動作は人によって異なります。リフォームを始める前に、次のポイントを確認しましょう。
- 杖を左右どちらの手で使っているか
- 両手で杖を使っているか
- どの動作で身体がふらつくか
- 靴を立って脱ぐか、座って脱ぐか
- 杖をどこで置き、どこで杖やほかの福祉用具に持ち替えるか
- 家族や介助者と一緒に出入りするか
- 将来、歩行器や車いすを使う可能性があるか
ここからは、それぞれの確認ポイントについて詳しく説明します。
杖を左右どちらの手で使っているか
杖を持つ手によって、使いやすい手すりの位置や身体の向きが変わります。
利き手だけでなく、痛みやマヒのある側、室内各所での動き方も確認しながら、手すりや家具の位置を検討します。
両手で杖を使っているか

松葉杖やロフストランドクラッチなどを両手で使用している場合は、片手で杖を使う場合よりも広い動作スペースが必要です。
また、鍵や玄関ドアを操作するとき、洗濯物を干すときなど、作業をするときは、杖や荷物を一時的に置く場所、身体を支える設備も各所に必要になります。
どの動作で身体がふらつくか

鍵を開けるとき、ドアを動かすとき、靴を脱ぎ履きするとき、上がり框を上り下りするとき、いすから立ち上がるとき、トイレに行くときなど、いつもしている仕草のなかで、ふらつきやすい場面を確認します。
困っている動作を具体的に把握することで、必要な場所に手すりやいすを設置しやすくなります。
靴やズボンなどを立って脱ぐか、座って脱ぐか

立ったまま靴やズボンなどを脱ぎ履きすると、片足立ちになる場面があり、身体のバランスを崩しやすくなります。
いすや段差に座って行う場合は、座る場所だけでなく、立ち上がりやすい環境を整えることも大切です。
いすを設置する場合は、いすを置くスペースに加えて、座面の下に足を引ける空間があるか、ひじ掛けがついているか、立ち上がるときに掴まれる手すりなどがあるかを確認しましょう。
立って脱ぎ履きする方法にも、座って脱ぎ履きをする方法にも、それぞれメリットと注意点があります。
大切なのは、無理に日常の動作を変えるのではなく、普段どのように靴を脱ぎ履きしているか、どの場面でふらつきや負担を感じるかを確認し、その方にあった手すりやいす、動作スペースを検討することです。
杖をどこで置き、どこで杖やほかの福祉用具に持ち替えるか

屋外用と室内用の杖を使い分ける方や、玄関から歩行器などに持ち替える方もいます。
杖を手放したあと、次の福祉用具を使うまでに何につかまるのかを確認し、杖ホルダーや手すりを使いやすい位置に設けることが大切です。
家族や介助者と一緒に出入りするか

家族や介助者が付き添う場合は、本人だけでなく、介助する方が横や後ろに立てるスペースも必要です。
玄関の出入りや段差の上り下り、トイレ、入浴などの介助をする場合は、身体を支えながら安全に動ける広さがあるかも確認します。
将来、歩行器や車いすを使う可能性があるか
将来の身体状況を正確に予測することは、誰にもできません。
ただし、身体状況が変化し、歩行器や車いすを使う可能性も視野に入れておくと、後から変更しやすい間取りを計画できます。
具体的には以下の通りです。
- 手すりを付けられるように壁の下地をベニヤにする
- 室内で動きやすいように物を整理する
- 床を車輪の跡がつかない丈夫な素材にしておく
- 敷居などの車輪がひっかかりやすい小さな段差を解消する
- 車いすや歩行器を置く場所を検討しておく
- 壁を壊すような大規模な工事をするならコンセントの位置を調整したり増設したりする
- 将来リフトを使う予定があるなら天井や床を補強する
- その他、様々
将来を想定して、今のうちにすべてを車いす対応にする必要はありません。
身体状況が変化したとき、住まいを改修するだけでなく、福祉施設や介護サービスを利用するなど、別の方法を選択する可能性もあります。
必要以上に備えることで、現在の暮らしにくさや、工事費の増加につながることもあるため、今の生活を優先しながら考えることが大切です。
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